大島莉紗 〜パリ国立オペラ座からの便り〜

パリ国立オペラ座管弦楽団のヴァイオリン奏者によるブログ。

新エトワール誕生

ロミオとジュリエットの初日。

劇場の定員の3分の1である800人の観客でしたが、私は壁の真横にいた為に客席は全く見えず。しかし満席の時と変わらない程拍手は大きく、暖かな気持ちを頂きました。

 

現在フランスでは、劇場や大きなイベントに参加する為には健康衛生パスが必要になります。これはワクチンを打った証明、48時間以内に受けた検査の陰性証明書、コロナに罹ったという証明のいずれかが必要で、それなしにはコンサートを聞くこともできないという不自由な事態になっています。

奏者や演者は週に一度の検査なので、週の終わりには陰性証明書の48時間の期日をとっくに過ぎているのですが…

 

さて、この初日はオペラ座のバレエ団にとって歴史的な日となりました。休み時間中に、終演後にエトワールの発表があるらしいという噂が流れていたので、普段なら終わってカーテンコールの際、指揮者が出た後カーテンが最初に降りると同時にオーケストラは退散するのですが、みんなそのまま残り発表を待ちました。

 

支配人とバレエの監督であるオーレリー・デュポンが出てきて、まずは長い間劇場を閉鎖していた後もこの様にいらしてくださった観客への感謝、そして年末にエトワールに指名されたものの晴れの舞台がずっと延期になり、この日エトワールとして初めて踊ったポール・マルクに対する賛辞。その後、今回ジュリエットを踊ったセウン・パクのエトワールへの就任が発表されました。名前からわかるように、彼女は韓国人で、オペラ座初のアジア人エトワールの誕生です。

 

ハーフでもなく純アジア人が、パリオペラ座の様な容姿に徹底的にこだわる中でトップに立つとは予想できませんでした。

彼女がまだ入団したばかりでコールドで踊っていた頃からアジア人なので目を引いて見ていました。私はバレエの事は全く分かりませんが、他のフランス人とも引けを取らない手足の長さや、明らかに周りよりも動きにキレがあり上手というのはわかりました。

その後すぐに昇進し、主役級を踊る様にはなっていましたが、特に興味もなかったので、しっかりと踊りを見る事もあまりありませんでした。

 

なので今回のノミネートにはかなりびっくり。アジア人だし、上手だけれど、エトワールになれないバレリーナとなるのだろうなと勝手に思ってしまっていました…(ごめんなさい)

発表を受けた帰り道では、デュポンに人種差別問題が上がっていたので、それを払拭したかったのかとか、コロナで客離れを阻止する為の話題作りかとも思いましたが、家に帰って彼女の踊りをYouTube で色々観て納得。

 

しなやかで、細部にまで神経が研ぎ澄まされた素晴らしい踊りでした。これはやはり有無をも言わせない、圧倒的な実力によるものだと。

今後他の演目を見るのが楽しみです。


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