備忘録: イタリア編
あのスペインでの講習会の数週間後、今度はミラノ近郊で講習会があった。
私はそちらには参加しなかったが、ちょうどイタリアでコンサートがあったので、レッスンを受ける為に1日だけ立ち寄る事にした。
講習会はミラノから電車で1時間程の小さな街。この時もミラノに着いた時点で既に夜だったが、駅から先生に電話をし、これから向かう旨を伝えた。
行き先を何度も確認し電車に乗り込んだ筈なのに、検札が来た際に、私のチケットの行き先は正反対の方向だと言われた…どうやら電光掲示板のホームの番号が、急遽変更になったらしいのだが、イタリア語のわからない私は気づかなかったようだ。
車掌さんによると、次に止まる駅は1時間後で、そこからミラノに戻って目的地に行くと最終に間に合わない…しかしもう少し行くと止まる駅ではないが、時間の都合上少し停車するので、その時に降りて反対方向から来る電車に乗り込むと良いと言われた。
いまいち言われてる事も良くわからなかったが、知らせに来てくれると言うのでお任せした。
しばらくすると車掌さんが走ってきて「今だ」と電車の先まで連れて行かれ、ドアを開けてくれた。当然ホームがあるのだと思いきや、何もないただの線路の上。車両から飛び降りて線路に降りろと言う。そして、この線路をあちらの方向に向かって5分程歩けば駅がある。そこで30分待てばミラノ行きの電車が来るので、それに乗るようにと言われた。
車両から線路までは結構な距離があり、飛び降りなければないない。
あまりの状況に理解できずにいたが、背中を押され電車から降ろされ、その電車と共に車掌さんも行ってしまった…「気をつけてね」との言葉を残し…
本当に真っ暗闇の中、誰一人いない線路に放りだされた。怖くてたまらなかったが、とにかく歩いて駅に行かなければと必死で歩く事10分、駅が見えてきた。
しかし駅に着いても、そこは誰もいない無人駅。駅の周りももちろん誰もいないし何もない。時刻表すらないので、本当に電車が来るのか確かめようがない。
公衆電話があったが壊れていて使えなかった。本当に途方に暮れ、でも気を落ち着かせる為に何か飲もうとカバンを開けると中身でビチャビチャ。車掌さんが来た時に急かされたので、ペットボトルの蓋がきちんと閉じていなかったのだ。
踏んだり蹴ったりとはまさにこの事だな。スペインの時といい、今回といい、なぜこんなに事件ばかり引き起こしてしまうのかと落ち込んだのを今でも鮮明に覚えている。
それから電車が来るまで一人で待つのは本当に長かったが、30分後本当に車掌さんの言う通り、電車が来て止まってくれた。
やっとの思いでミラノ駅に戻り、先生に電話すると「もうホテルに着いたか?」と聞かれ、いやまだミラノで…と事の経緯を報告すると、絶句された。しかし、どんなに遅くなっても必ずホテルに着いたら電話するようにと約束させられた。
そこからまた電車に乗り、目的地に着くと既に午前様。申し訳ないなと思いつつも、約束なので先生に電話すると、すぐにロビーに降りて来てくれた。しかしそこのホテルはまさかの満室。10分程歩いた所にある別のホテルなら空いているとの事。優しい先生は真夜中にもかかわらず、そこまでついてきてくれた。楽器とスーツケースを抱えている私を見て、荷物を持ってあげるからよこしなさいと言われ、スーツケースを渡そうとすると、いやそっちではなくと楽器の方を取った事には、少し「えっ」と思ってしまったが…
このような大事件が続け様に起こった次の月、9月に学校から派遣されてヨーロッパ各地にコンサートツアーに周ったのだが、その打ち合わせがちょうどレッスンの後にあった。すると、先生も一緒に来て挨拶をすると、ついてきた。
一緒に周るメンバー3人、そして引率の学長と副学長を前に、「この子をよろしくお願いします。絶対に1人にしないように。すぐに迷子になるから。」と夏の事件を面白おかしく先生がみんなに話して、お願いしたのでした。
お陰でそのツアーでは皆が守ってくれて、何事もなく無事に帰ってこられました。