大島莉紗 〜パリ国立オペラ座からの便り〜

パリ国立オペラ座管弦楽団のヴァイオリン奏者によるブログ。

キツかった10月

週6日勤務で毎週末仕事という、地獄の様な10月がやっと終わり、少し余裕が出てきました。

 

プログラム的にも3時間半かかるバレエの「赤と黒」と2時間半休憩なしのワーグナーの「さすらいのオランダ人」が毎日交互にある間に、リゴレットの練習、というかなりキツイものでした。

 

赤と黒では何も考えず、無の境地にいかにしてなれるかという修行の場。ワーグナーは弾きっぱなしなので、いかに体力とメンタルを最後まで保つかという事が重要です。

薄暗い中で、沢山の音と臨時記号だらけの細かい楽譜を見るのは本当に至難の技で、途中で急な視界がボヤけたり、楽譜が二重に見えたりとする事が多々ありました。

老眼になったか、急激に視力が低下したかと思っていましたが、私の周りでもその様な症状が続出。みんな疲れていたのかもしれません。先日眼科に行った所、何の異常も見当たりませんでした.

 

ワーグナーは全曲で51ページある楽譜を2時間半かけて弾きますが、魔の35ページというのがありました。速いパッセージや難しい場所というのは、集中してアドレナリンも出て疲れていても何とか弾ける物ですが、逆に音が極端に少なく伸ばしているだけとか、トレモロで静かに刻んでいるだけというのが精神的にも肉体的にも一番キツいです。それが35ページ目。大分弾いてきて、残り40分という所でこの1ページまるごとトレモロという、大ダメージを与えられる時間です。

そこでこの35ページに入る前に8章節の休みがある瞬間に、一斉にみんなが飴を口にする様になりました。最初は1人が持ち込んだ飴をみんなで分け合っていましたが、そのうち数多くの人が多くの種類の飴を持ち込む様になり…

 

その中でも人気はやはり特別甘いキャラメル味の飴。フルーツ味程度ではこの疲労感に対抗できず、より強い甘味を皆求めており、皆がその飴を買う様になりました。

 

たった一粒の飴のおかげで残りの40分なんとか毎回弾き切る事ができました。