大島莉紗 〜パリ国立オペラ座からの便り〜

パリ国立オペラ座管弦楽団のヴァイオリン奏者によるブログ。

お別れコンサート

12年間オペラ座音楽監督を務めた、フィリップ・ジョルダンのお別れコンサートがありました。

リストのファウスト交響曲ワーグナーパルジファルの第3幕という、どちらも1時間を超える大曲。普段なら2つあるオーケストラのどちらかですが、今回は特別に前半は青、後半は緑のオーケストラが担当し、一晩に2つのオーケストラ、つまりメンバー全員が演奏しました。

 

私は緑なので後半のワーグナー担当。パルジファルは美しいけれど、単調で技術的にも難しい所はなく、弾きがいはありません。しかし私の好きなRene  Papeと Peter Matteiがソリストだったので、その歌声をじっくり真横で聴きながら弾くには最適でした。

 

ジョルダンワーグナーは切っても切れない関係で、本当にこの12年間弾かされ続けました。初めて彼と演奏したのがワルキューレ。まだまだ若くエネルギーが有り余っていた為か、とにかくトレモロでも大音量で全弓で弾くこ事を毎度強く要求される、私もバカ真面目に素直に従ってその様に弾いていましたが、周りは年齢層が高くそんな事には動じずに我が道を行く人ばかり。弾きながら指揮を見ていると必ず目が合い、もっと大きく弾けと要求され…

その様な事が続くうちに私の右手も悲鳴をあげ、腱鞘炎になってしまいました。それからは指揮はじっと見ないように、目が合わないように、とにかく自分を守ろうと決意したのでした。

 

以降、私のジョルダンを見る目はどんどん冷ややかになったのですが、人当たりの良い彼はいつでもにこやかに声をかけて接してくれました。舞台関係者も彼の無理な要求によく陰口も聞こえましたが、それでも最終的に自分の意見を推し進めていけたのは、彼の人たらしいとも言えるような人柄だったのかもしれません。

 

さて、昨日のコンサートではカーテンコールの際に、支配人が最後に登場しスピーチし、その後オーケストラの委員、最後にジョルダンがスピーチをしました。そしてこのコンサートを最後に退団する3人の奏者からオーケストラを代表して、ジョルダンへ3つのプレゼントの贈呈がありました。

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オーケストラ全体の写真に全員がサインした物、コクトーリトグラフ、そして彼の生まれた年、1974年産のコニャックです。

昨年末、リングの録音が終わった時にも大きな大きなボトルのシャンパンをプレゼントしたのですが…

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本番の際、舞台袖に必ずビールが用意され、飲んでから指揮台に上がる彼にはぴったりのプレゼントで、コニャックの箱を手にした時が一番嬉しそうでした。

 

ジョルダンにとってもオーケストラにとっても新しい未来が待っていますが、より良いものとなる事を切に望みます。